アイドルということー青春の桜田淳子さん [歌]
これまで『アイドル』という言葉を、無批判に使ってきた。
しかし、僕らの知る70年代は違っていた。
1974年5月のことだった。
僕たちは、中学三年に進級し、県大会を目指していた。
しかし、地方大会で立ちはだかるのは県大会ベスト四のチームだった。
隣町で何度も何度も練習試合が組まれた。
しかし、一度も勝てなかった。
6月のある日、翌日の中体連に備え、早めの練習を切り上げ、先生の訓示の後、ユニフォームが渡された。
帰りに本屋で立ち読みしていたら、近くに来る人影があった。
隣町のライバル校の部活の先生だった。
調子はどうだと聞かれ、即座に『勝ちます』と答えたことを今でも覚えている。
勝てる根拠など何もなかった。
一緒にいた友達に、帰りに『いいのか。あんなこと言って』とたしなめられたと思う。
翌日、接戦になったが、僕らは勝ち抜いた。
そんな壁を破った時に流行った歌が、『黄色いリボン』だった。
今でも、この歌を聴くと体中に力がみなぎってくる。
負ける気がしない。
困難を切り抜ける力がわき上がる。
不謹慎ながら、試合中、歌を口ずさむことさえあった。
それは、むしろピンチの時だったと思う。
この力の源泉は、この曲の旋律であり、使用される楽器であり、ちりばめられた歌詞にあり、一人の歌手の優しくも力強い視線にあったのかもしれない。
週刊文春8月15日号にこんな書き出しの記事がある。
『昭和アイドルの歌声には時代を作る力があった』
この表現は素直に実感できる。
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アイドルとは何か。
この問いに対する答えは難しい。
【中略】
だが、昭和の頃は違った。
アイドルとはマイクを握ってステージに立つものだった。
歌わなければアイドルではない、私たちはそう信じていた。
だからこを、曲そのものがもつ『力』が必要だった。
アイドルは歌唱力に磨きをかけ、衣装や髪型、振り付けにも様々なアイディアがこらされた。
【中略】
筒美京平、松本隆、阿久悠といった当時一流の才能が集まり、一つの卵を本気で育てようとした結果、アイドルはまばゆいばかりの光を放った。
そして、歌は時代を貫く力を持つことができた。
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これまで、正直アイドルということに、抵抗を感じてきた。
当時アイドルということを言葉としてどれほど使い分けていたか、疑問だった。
おそらく、自分自身、1980年を過ぎて、明確にアイドルとして理解できるようになったのではないかと思う。
1970年代に多くのスタッフにより手作りでアイドルが生まれ、1980年代にマニュアルに従い多くのアイドルが生まれ、一つの文化として、花開いたのではないかと思う。
それが昭和の終わりとともに、形を変える。
もはや歌わないパフォーマンスも含めアイドルと呼ばれるようになる。
それとともに、それまでの本来のアイドルは後退するようになる。
再び週刊文春を引用する
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今やグラビアアイドル、アイドル女優、ひいては秋葉原の地下アイドルまでいる。
全てをひとくくりに定義するのは至難の業だ。
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明らかに、今のアイドルと昭和のアイドルとは異なっていた。
それが、今アイドルということに躊躇を覚える原因なのだと思う。
もし、青春時代の僕らのアイドルが、僕らの理想型として現実のものになり、それに対しいくつかの選択肢が与えられたとするならば、それは一過性のモノに過ぎなかったのかもしれない。
しかし、僕らの共有する70年代アイドルとしての桜田淳子さんは、僕らとともに成長してくれたし、単にスタッフにとどまらず、ファンが参加してのものだった。
そこに手作り感があるし、価値観の共有が生まれる背景があるのだと思う。
男性ファンには理想の恋人であり、女性ファンには理解し合える友達であり、まだ小さい子には優しいお姉さんだったのかもしれない。
1990年だっただろうか。
会社でチケットをもらって、驚いたことがある。
『オーロラの下で』の配役で、桜田淳子さんを見たときだった。
驚きと躊躇を覚えながらも、銀座まで見に行った。
ストーリーはほとんど覚えていない。
覚えているのは、僕の知る桜田淳子さんはそこにはいなかったことだった。
アイドル時代のように周りから浮き上がったという感じではなく、溶け込んでいるといった感じだった。
既に女優だった。
帰り道に、これでいいんだと自分に言い聞かせていたことを覚えている。
70年代アイドルが、今もテレビに姿を見せ、週刊誌で特集を組む。
それは、テレビが主導した歌謡史の原点なのだろう。
そして、僕らは偶然にもそれに立ち会うことが出来た。
追伸 動画のUP主様および、引用の記事に感謝します。
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